深層大循環のコンピュータ・シミュレーション

先端海洋システム研究センター   海洋システム計測分野

深層とは海のおよそ2000mより深い部分を指し, 北大西洋北部や南極大陸周 辺で海面から海底に沈んだ冷たい水が世界中を循環しています. 観測だけで はわからない深海の流れの様子をコンピュータを使って再現しました.

海洋循環の算出

海水も「ニュートンの法則」に従って運動するため, 海を水平・鉛直方向に小さ な箱に分け, 力の釣合いを計算することで海の流れを求めることができます. 天気予報も同じような方法によっています. ここで使用しているモデルは北極 海付近は含みませんが, 世界の海を水平は1/4度 (日本付近で25km. 経度1440 個×緯度611個), 鉛直に29層 (海面付近は40m, 1500m以深で250m間隔) に分け ています. 海部分の箱の総数は1200万個になりますので, コンピュータを使っ て計算します. 流れを計算するためには水圧が必要ですが, 観測された水温や 塩分 (気候値) の分布を与えています. 計算によって水温や塩分を求める必要 がないため, 「診断的」手法と呼ばれます.

4000m深における流速の分布 (右:全体, 左:日本付近の拡大). 灰色部分は4000mよりも浅い領域です. 流速の大きさは右上の矢印に従い, 特に強い部分を赤色で示しています. 係留観測による平均流速 (赤:海洋研, 紫:他機関)

深さ4000mの深層に, 北大西洋をアメリカ大陸に沿って南下する流れ, 南太平 洋をニュージーランドに沿って北上する流れが再現されています. また, 日 本近海では, 日本に向う西向きの流れが本州に沿って北に向かっています. こ の様子は, われわれがこれまで観測してきた結果とよい一致を示します.

(ほかの深さの流れは, パソコンにて表示しています)

海洋における輸送の計算

地球環境において海洋が果たす大きな役割は, 海水が熱やさまざまな物質が含み, 循環することでそれらを輸送することです. とりわけ深層の水は海水の大部分 を占め, 世界中を循環していきます. 海水は上下にも移動するため, 深海での 水の動きを3次元的にとらえることが重要です. 計算によって求めた流速場から, 海水の軌跡を計算しました.

4000m深にあった海水の軌跡 (右:全体,100年間, 左:日本付近,5年間). 各位置における深さで色分けしています.

ほとんどの深層水は, 海嶺によってわけられた狭い領域内を循環していますが, 一部が海嶺に開いた「通路」を抜けてほかの領域に流出しています.